会社を設立した時など、役員報酬を決めるにあたって金額の決め方に悩まれる経営者は多いのではないでしょうか。
この記事では役員報酬の決め方に関するルールや役員報酬の相場について紹介します。
役員報酬を決める際には会社法や税法などの決まり事を正しく守る必要があります。
役員報酬は定款や株主総会によって決めるものです。
役員報酬を決める際の注意点について解説するので、参考にしてください。
ルールを守って役員報酬を決めましょう!
<この記事で分かること>
・役員報酬の決め方はどうすればいい?
・役員報酬を決める際に守らなければいけないルール・法律とは?
役員報酬の決め方にはどんなルールがある?
役員報酬の決め方にはどんな点に注意すればいいでしょうか?
役員報酬はいくらにしてもいいというわけではなく、税務面や法律や会社の業績にも配慮しなければなりません。
役員報酬の定義や役員報酬の決め方についてチェックしましょう。
役員報酬とは?
役員報酬とは会社の役員に支払う報酬です。
通常の給与とは違い、役員が会社経営に携わる際の報酬として会社から役員に支払われるお金になります。
ここでは、役員の範囲や役員報酬と給与に違いについて確認しましょう。
役員の範囲
役員とは会社の業務執行や監査を行う幹部職員のことです。
役員は会社の意思決定を行う重要ポストで、経営者の役割も果たします。
会社法第329条によると、役員は「取締役」「会計参与」「監査役」の三人と定義されています。
役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
引用:会社法第329条
役員報酬と給与の違い
役員報酬も給与も会社から仕事の対価として支払われるお金ですが、厳密には違いがあります。
従業員は会社と雇用契約を結び、労働の対価として給与を受け取ります。
一方、役員は株主から会社経営を委任されて委任契約を結び、その対価として役員報酬を受け取ります。
つまり、給与が労働の対価であるのに対して役員報酬は経営の報酬として支払われるものです。
役員報酬は1度決めたら簡単に変更することができません。
<役員報酬と給与の違い>
給与:労働への対価
役員報酬:経営の報酬への対価
役員報酬の決め方と税務上の注意点
税務上、正しく役員報酬を損金算入するためにはいくつかルールを守らなければなりません。
損金とは会社の所得から控除できるお金のことです。
損金に計上するお金が大きいほど会社が支払う税金が少なくなります。
税務上で損金算入として認められない場合は会社が負担する税金が多くなってしまうため、税法や税務署からの指摘を正しく守らなければならないのです。
役員報酬の決め方
役員報酬は自由に決めていいというわけではなく、役員報酬を決めるにあたって決まり事があります。
役員報酬の決め方には以下3つの方法があります。
それぞれの決め方や具体例について見ていきましょう。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
定期同額給与
「定期同額給与」は毎月決まった額(定額)を支給する役員報酬です。
毎月同額で支払われていなければ税務上で損金として処理できません。
この方法で役員報酬を支払う場合、株主総会の議事録を提出する必要があります。
事前確定届出給与
「事前確定届出給与」とは不定期に支払う役員報酬です。
税務署へ事前に届けを出すことで人件費として損金算入できます。
社外取締役など、非常勤の役員に対してこの方法をとることがあります。
この方法で役員報酬を支払う場合、税務署への届出が必要です。
業績連動給与(利益連動給与)
「業績連動給与」あるいは「利益連動給与」とはその名の通り、会社の業績や利益に連動して額が変動する役員報酬です。
会社の業績に応じて報酬の額が変わるため、役員に責任感やモチベーションが生まれるというメリットがあります。
業績が悪かった場合には報酬の額も小さくなるため、会社の業績を上げられるモチベーションとなるのです。
業績や利益を計算する際、「売上高」や「営業利益」など損益計算書上の数値あるいは「ROA」や「ROE」などの経営指標を参考にすることが多いです。
ただし、この方法で役員報酬を支払う場合は事務上の手続きが煩雑であるうえに厳しいルールを満たしていなければ損金としてみなされません。
役員のモチベーションを上げるためにはストックオプション(新株予約権)の付与という方法を取られることも多いです。
なお、業績(利益)連動給与は同族会社には認められていません。
ROE:自己資本利益率(Return On Equity)。株主の投資がどれだけ利益獲得に貢献したかを表す指標。当期純利益÷自己資本額
ROA:総資産利益率(Return On Assets)。会社の総資産がどれだけ効率的に利益獲得に結び付けているかを表す指標。当期純利益÷総資産
役員報酬の決め方に関するルールと注意点
役員は責任が重い仕事であるため役員報酬の決め方には法律で守らなければならないルールがあります。
会社法第361条では役員報酬の決め方について「定款または株主総会で決議する」と記されています。
役員報酬を決めるにあたっての注意点として、以下4点を確認しましょう。
- 注意点1.会社設立後3ヵ月以内に決める
- 注意点2.毎月同額であること
- 注意点3.役員報酬を変更可能な期間
- 注意点4.株主総会で決議する
これらのルールを守らなければ損金算入が認められず、企業の経営成績に影響を及ぼしてしまいます。
税務調査で指摘された場合、株主総会の議事録など証拠となる資料を提出する必要があります。
注意点1.会社設立後3ヵ月以内に決める
役員報酬は会社設立後から3ヵ月以内に決める必要があります。
役員報酬は1度決めた後でも事業年度を跨げば株主総会を経て変更が可能です。
そのため、はじめのうちは低めに設定しておいて次年度から業績に応じて変更するということもできます。
注意点2.毎月同額であること
定期同額給与で役員報酬を決めている場合、毎月同額を支払う必要があります。
資金繰りが厳しい場合でも同額を支払わなければなりません。
役員報酬の支払いで企業の財政を圧迫してしまうことがないように注意しましょう。
注意点3.役員報酬を変更可能な期間
役員報酬を変更できる期間は「事業年度開始から3ヵ月以内」とされています。
4月に事業年度が開始される場合、6月末が役員報酬を変更できる期限です。
この期間に役員報酬を変更する場合、税務上の損金として認められます。
また、期中に役員を増やす場合は増員分の役員報酬の増額が可能です。
業績悪化によって役員報酬を変更しなければならない場合など、やむを得ない事情がある場合も特例として役員報酬の減額が認められることがあります。
注意点4.株主総会で決議する
役員報酬を変更する場合には株主総会の決議が必要です。
株主総会では役員報酬の総額、すなわち役員全員の役員報酬を合計した金額を決定します。
その後、取締役会(あるいは取締役)で役員ごとの内訳を決定するという流れです。
税務調査では株主総会で役員報酬を変更したことを証明するために議事録の提出を求められることがあります。
株主総会の議事録は必ず保存して提出できるように準備をしておきましょう。
役員報酬の金額相場はいくらぐらい?
役員報酬の相場はいくらぐらいでしょうか?
人事院の統計によると、企業規模ごとの役員報酬の相場は以下の通りとなっています。
従業員数ごとの規模や役職によって相場は変わりますが、専任取締役クラスだと2,000万円前後が役員報酬の相場となっています。
規模 | 会長 | 副会長 | 社長 | 副社長 | 専務 | 常務 | 専任 取締役 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
全規模 | 6,355万円 | 5,246万円 | 4,622万円 | 3,924万円 | 3,190万円 | 2,461万円 | 1,945万円 |
3,000人以上 | 10,160万円 | 6,473万円 | 7,373万円 | 5,450万円 | 4,502万円 | 3,396万円 | 2,447万円 |
1,000人以上 3,000人未満 | 5,585万円 | 4,548万円 | 4,554万円 | 3,460万円 | 3,067万円 | 2,382万円 | 1,940万円 |
500人以上 1,000人未満 | 5,130万円 | 4,798万円 | 3,963万円 | 2,856万円 | 2,462万円 | 2,127万円 | 1,820万円 |
スタートアップ企業における役員報酬
スタートアップ企業における役員報酬の相場は月額20万円~30万円、年収にすると300万円~400万円が一般的とされています。
創業したての企業は資金繰りに余裕が少ないため、役員報酬を低めに設定する場合が多いです。
企業によっては役員報酬を0円にしている場合もあるようです。
また、役員報酬を低く設定することで社会保険料を安くできます。
役員報酬を決めるポイント
役員報酬の金額を決める場合、どのように決めればいいでしょうか?
役員報酬の決め方についてのポイントとして、以下3点が挙げられます。
- ポイント1.利益とのバランスを重視する
- ポイント2.税負担に注意する
- ポイント3.職務内容に応じた金額にする
ポイント1.企業利益や税金とのバランスを重視する
役員報酬は企業の利益や税金とのバランスを重視しましょう。
利益が出ていないのに役員報酬が多すぎる状態だと企業利益を圧迫してしまう恐れがあります。
特に、創業したばかりの会社だと役員報酬が高すぎると資金繰りが立ちいかなくなることもあるでしょう。
役員報酬を決める際は営業成績やキャッシュフローの予測をして会社の業績に影響を与えない金額に設定しましょう。
先ほども紹介したように、期中に業績が悪化した場合は役員報酬を減額することも可能です。
競合他社とのバランス
同規模の競合他社と比べて役員報酬が高すぎる場合、税務署から損金として認められない場合があります。
反対に、役員報酬が低すぎると役員のモチベーションを下げてしまう場合も考えられるでしょう。
役員報酬の金額は自社の規模から考えたときに役員報酬の相場をチェックして、高すぎず低すぎない金額に設定する場合が多いです。
ポイント2.税負担や社会保険料に注意する
役員報酬の金額を決定する際は税負担や社会保険料について考慮しましょう。
役員報酬が多いほど損金も増えるため会社にとっては節税に繋がります。
税務上のルールを守って役員報酬を損金算入するように心がけましょう。
役員は会社の社会保険料に加入する義務がありますが、役員報酬の金額によって社会保険料の額も変動します。
役員報酬の金額が増えるほど社会保険料の負担も大きくなります。
社会保険料の金額が最も安くなるのは役員報酬が月額63,000円の場合です。
役員報酬が0円の場合は年金事務所から社会保険への加入を断られて国民健康保険に加入するように言われてしまうため、注意しましょう。
ポイント3.職務内容に応じた金額にする
役員報酬の金額は職務内容に応じた金額にしましょう。
業務が少ないのに役員報酬が高いと株主や従業員から不満が出てしまう場合があります。
「お手盛り」の防止
役員報酬は役員が自身の利益になるような決定をする、いわゆる「お手盛り」を防ぐための規制が設けられています。
<お手盛りとは>
お手盛りとは自身が持つ権利によって自身の利益となる決定をすること。
会社法においては役員が自身の利益になるような決定が禁じられている。
会社法ではお手盛りを防止するための条文が設けられている。
ルールを守って役員報酬を決めよう
役員報酬は税務上のルールや会社法による規制があるため、慎重に決定しましょう。
役員報酬の決め方は会社の業績や税負担に応じて金額を決定します。
また、役員報酬を変更する場合は定款または株主総会による決議が必要です。
役員報酬の金額は大企業など規模の大きい会社では2,000万円前後が相場です。
スタートアップ企業における役員報酬は業績が不透明なため低めに設定する場合があります。
ルールを守りながら企業の業績を悪化させないような役員報酬の決め方を心がけましょう。
<まとめ>
・役員報酬の決め方は税務上のルールや会社法の規制に注意する
・役員報酬の相場は大企業の場合2,000万円前後、スタートアップ企業では低く設定されることもある
・役員報酬は定款または株主総会で変更できる