M&Aとは企業の買収・合併や事業の譲渡などの総称です。
中小企業にとってM&Aは事業を円滑に継続するために必要な手法となります。
この記事では、中小企業におけるM&Aの件数に関する動向や、M&Aの手法についてまとめました。
中小企業がM&Aを進めるために注意するべきポイントを紹介しますので、M&Aの具体的なイメージ作りに役立ててください。
<この記事で分かること>
・M&Aとはどんな経営戦略?
・M&Aを実施する方法とは?
・売却価格を決めるにはどんな方法がある?
・M&Aを成功させるポイントとは?
中小企業にとってのM&Aとは?
企業は、事業継続をするにあたって現状を鑑みながらM&Aを行い、適切な事業形態を選択する必要があります。
M&Aがどういうものなのか、M&Aの売り手側・買い手側のメリットや近年のM&Aの動向について見ていきましょう。
M&Aとは?
M&Aとは、企業が合併あるいは買収によって1つの事業を拡大することです。
日本M&Aセンターの定義によると、広義のM&Aには企業の合併や買収だけではなく業務提携も含まれています。
M&A(エムアンドエー)とは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略です。
引用:M&Aとは/M&A成功のために|日本M&Aセンター
M&Aの意味は、企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が一つになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。
M&Aの広義の意味として、企業の合併・買収だけでなく、提携までを含める場合もあります。
中小企業におけるM&Aの動向と件数の推移
2010年頃まで、中小企業のM&Aは一般的ではありませんでした。
しかし、2010年以降中小企業によるM&Aの件数が増加しています。
中小企業庁の統計によると、2011年には1,687件だったM&A件数が2019年には4,088件と、ここ10年で2.5倍まで増加したのです。
各都道府県に設置されている「事業引継ぎ支援センター」へM&Aを相談する件数も増えています。
2010年には250件だった相談件数が、2019年には11,514件となっているのです。
多くの中小企業にとってM&Aが身近になったと言えるでしょう。
中小企業におけるM&A実施のメリット
M&Aの件数が増加したことに伴い、中小企業の経営者によるM&Aへの意識も変わってきています。
10年ほど前はM&Aについてネガティブな考えを持つ経営者が多い傾向にありました。
しかし近年はM&Aをポジティブなものと考える経営者が増えているのです。
以下の通り、M&Aは売り手と買い手の双方にメリットがあります。
M&Aによる売り手のメリット | M&Aによる売り手のメリット |
---|---|
・後継者不在の問題が解消できる ・従業員雇用の安定につながる ・事業継続や事業拡大が見込める ・経営基盤を強化できる ・技術やノウハウが継承される ・創業者利益を得られる(イグジット) | ・企業規模を拡大できる ・事業の多角化が可能となる ・新規事業に参入できる ・販路の拡大につながる ・技術やノウハウを吸収できる ・シナジー効果を創出できる |
M&Aによる売り手のメリット
M&Aによる売り手のメリットには、後継者を見つけ、事業継続や従業員雇用を安定させられることが挙げられます。
中小企業庁の調査によると、中小企業の70%以上が「後継者不在」だと回答しています。
しかしM&Aによって後継者を発見できれば、育ててきた事業を継続させられるのです。
中小企業庁の調査によると、中小企業の経営者平均年齢は年々上昇、2020年には30万人以上の社長が70歳超えです。同時に、中小企業の70%近くが「後継者不在」と回答しています。後継者問題を抱えている企業にとって、M&Aは事業承継と事業成長を一度に叶える選択肢になりえます。親族に会社を継ぐ意思がない・継がせたくない、社員が自社株式を買い取る資金を用意できない場合の解決策になります。
引用:日本M&Aセンター
イグジットと創業者利益
起業家は、M&Aで企業や事業を売却すると創業者利益を得られます。
起業家が自らが運営する事業価値を高めてから事業を売却し、多額の創業者利益を得る方法は「イグジット」と呼ばれます。
M&Aによる買い手のメリット
M&Aによる買い手のメリットには、事業規模を拡大することでビジネスチャンスが生まれることが挙げられます。
優秀な技術やノウハウを有している中小企業を買収することで、優れた経営資源を獲得できます。
また、販路や人材を獲得することで、売上拡大や技術革新など、シナジー効果も見込めるでしょう。
M&Aの種類
M&Aは主に「企業合併」「企業分割」「事業譲渡」の3種類に分けられます。
それぞれの特徴やメリットを比較していきましょう。
M&Aの種類 | 特徴 |
---|---|
企業合併 | 複数の企業が1つの企業に統合する |
企業分割 | 会社単位で事業を分割する |
事業譲渡 | 事業単位で事業を分割する |
ケース1.企業合併
企業合併は、複数の企業を1つの企業に統合するM&Aの手法です。
企業を1つに統合することで、経営の効率化やシナジーの獲得に期待できます。
吸収合併と新設合併
企業合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。
吸収合併は、合併によって消滅する企業(買収先企業)の財産を、すべて存続する会社(買収企業)に引き継ぐM&Aの方法です。
新設合併は、合併に際して新しく会社を設立し、合併に関わるすべての企業が持つ財産を新しい会社に引き継ぐ方法となります。
敵対的買収と友好的買収
M&Aの1種である企業買収には、敵対的買収と友好的買収があります。
敵対的買収は、企業の買い手が売り手の合意を得ずに株式を買い取ること(敵対的TOB)で、企業を買収するものです。
一方、友好的買収は、企業の買い手と売り手が買収の合意を得て企業買収をすることを言います。
買収者が、買収対象会社の取締役会の同意を得ないで買収を仕掛けること。敵対的TOBともいう。買収者は、対象会社の経営権を支配できる議決権を取得するために、総株主の議決権の過半数の取得を目指すことが一般的である。
引用:敵対的買収|野村証券
企業買収の種類
企業買収には、「MBO」「EBO」「LBO」といった種類があります。
MBOは経営者による企業買収で、経営者自ら企業を所有する買収手法です。
【企業買収の種類】 MBO:経営者による企業買収。マネジメント・バイアウト EBO:従業員による企業買収。エンプロイー・バイアウト LBO:借入金を用いた企業買収。レバレッジド・バイアウト
ケース2.企業分割(会社分割)
企業分割(会社分割)とは、既存の会社における事業を他の会社に分割するM&Aの手法です。
事業単位で会社を分割するため、不採算事業を切り離したり、細かく事業を切り分けたりして他の会社に分割できます。
企業合併と企業分割の違いは、継承する権利義務が会社単位であるか事業単位であるかです。
企業合併は会社単位で権利や義務を継承するものですが、企業分割では事業単位で権利や義務を継承します。
ケース3.事業譲渡
事業譲渡とは、会社が事業の全部または一部の権利や義務を他の会社に譲渡することです。
特定の事業のみを切り出して譲渡できるため、売り手側は会社を存続しながら財務状態を健全化できるというメリットがあります。
企業分割と事業譲渡の違いは、企業分割が包括的な権利義務の譲渡であるのに対して、事業譲渡は譲渡する資産や権利を細分できるという点です。
M&Aで売却価格を決める方法
M&Aにおいては、企業価値を算定して会計処理をする必要があります。
企業価値を算定する方法として、以下3つのアプローチを確認しましょう。
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
- コストアプローチ
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場の観点から株価を算定する方法です。
たとえば株式が上場しているなら、証券取引所で取引されている株価によって企業価値を算出します。
客観性が高く、企業価値を算定することに向いているのが株価です。
一般的に、マーケットアプローチでは短期的な株価ではなく、平均的株価などで算出されます。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、企業の将来性を考慮して株価を算出する方法です。
キャッシュフローの予測に基づいて企業の株価を算定します。
計算方法は「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」の3種類です。
コストアプローチ
コストアプローチとは、買い手である企業が買収先の企業を取得するためにかかった費用から株価を算出する方法です。
買収先企業の財務諸表に注目し、純資産額(資産ー負債)で株価を算定します。
コストアプローチは事業の将来性は考えずに企業を清算する際に使われる方法です。
M&Aを成功させるポイント
M&Aを成功させるためには以下のポイントをチェックしましょう。
- M&Aを行う理由を明確にする
- 利害関係者への影響を考慮する
- M&Aに知見のある人材を登用する
- M&Aの支援サービスを活用する
ポイント1.M&Aを行う理由を明確にする
M&Aを行う際は、理由を明確にする必要があります。
M&Aは組織の在り方が大きく変動する手続きで、現場にも大きなストレスが生じるものです。
そのため、M&Aをする目的が明確でなければ現場で意思疎通が上手くいかない可能性が出ます。
また、M&Aには多大なコストがかかることが多いです。
出費に見合うだけの成果を得ることを心がけ、M&Aの目的を見失わないようにしましょう。
ポイント2.取引先や利害関係者への影響を考慮する
M&Aは取引先や利害関係者に及ぼす影響を考慮しましょう。
M&Aで企業名称が変わったり、競合が発生してしまったりすると、取引先に不利益が生じるかもしれません。
また社風が異なる会社同士が合併すると不協和が生じてしまうことがあります。
そこでM&A先を選定する際には、現場で混乱が生じないかどうかも考慮してください。
M&Aの進行は秘密保持契約を結んで進めることが重要です。
M&Aのやり取りが終了するまでは情報の開示先を最低限に抑え、取引先や利害関係者への影響を抑えるようにしましょう。
ポイント3.M&Aに知見のある人材を登用する
正しくM&Aを進めるためにはM&Aに知見のある人材を登用しましょう。
M&Aは会計や法務など高度な専門的知見が必要な経営戦略です。
多くの経営者は、M&Aの進め方や具体的な進め方が分からないでしょう。
そこで弁護士や公認会計士など、M&Aの専門家に相談することがおすすめです。
ポイント4.M&Aの支援サービスを活用する
M&Aを成功させるには、支援サービスの活用も検討しましょう。
M&Aの支援サービスを活用することで専門家の知見を活用できます。
- 金融機関
- 商工団体
- 事業引継ぎ支援センター
- M&Aプラットフォーム
銀行や証券会社などの金融機関では、M&Aのアドバイスをしています。
M&Aに関する相談ができるほか、M&Aに必要な資金の融資を受けることも可能です。
中小企業なら、地元の商工団体や事業引継ぎ支援センターでM&Aの相談ができます。
M&AプラットフォームではM&Aのマッチングによって有力なM&A先を見つけられるでしょう。
M&Aを活用して事業を円滑に進めよう!
M&Aは中小企業にとって、売り手と買い手の双方に大きなメリットがあるものです。
M&Aにポジティブな見方をする経営者も増え、ここ10年ほどで中小企業におけるM&Aの件数は大幅に増えています。
M&Aには大まかに「企業合併」「事業譲渡」「企業分割」の3種類です。
M&Aの目的に応じて方法を見極めましょう。
M&Aを実施する際は、会計や法律などの専門知識が必要なため、金融機関やM&Aプラットフォームなどの専門機関に相談することがおすすめです。
M&Aを効率的に進め、事業規模を拡大して効率的な事業運営を実現しましょう。