新聞や報道番組などのメディアで「組織再編」という言葉がよく使われるようになりました。
組織再編の背景には、急激な社会情勢の変化も大きく関係しているでしょう。
この記事では、M&Aにおける組織再編について下記の内容について解説します。
- 組織再編とは
- M&Aにおける組織再編の2つの目的と5つの手法
- 組織再編のメリットと注意点
組織再編とは
組織再編とは、企業の組織・体制・形態を根本的に変更して編成し直すことです。
会社法の「第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付」で、その目的と手法が定められれています。
企業の経営課題の解決策として組織再編は有効な手段です。
組織再編の目的
組織再編の目的には次の2つが挙げられます。
- グループ企業の管理効率化
- 事業の拡大・縮小に伴う成長力の強化
グループ企業の管理効率化
事業が右肩上がりに成長してグループ内の企業数が増加すると、管理面での時間やコストも膨れ上がります。
組織再編により重複する事業や業務を整理・削減すると、グループとしての管理工数の効率化が実現するでしょう。
ここで重要なのは「本来必要な事業や業務」と「効率化を図る事業や業務」を見極めることです。
必要な事業や業務まで整理・削減しないよう注意が必要になります。
事業の拡大・縮小に伴う成長力の強化
組織再編は自社内やグループ内のみならず、他社との間で実施する場合もあります。
他社との事業再編では、自社の成長力をアップするために他社の事業や経営権を取得したり、反対に自社の不採算部門を切り離したりと、あくまでも自社ビジネスの効率的な運営を目的に行われます。
また自社だけでなくグループ全体の事業運営を効率化する目的で実施される場合もあるでしょう。
「自社やグループ企業内で実施する」もしくは「他社との間で実施する」どちらの場合においても、組織再編はビジネスの拡張や縮小による成長力の強化を目的に行われます。
事業拡大のための組織再編はイメージしやすいでしょうが、事業縮小に伴う組織再編は不採算の自重や業務を切り離し(縮小・撤退・カーブアウト等)他者に譲渡することで、採算性のある事業に注力することができ企業の発展に寄与するものとなります。 |
組織再編と組織変更
組織再編と組織変更の違いは、「法人格が複数」なのか「法人格が単独」なのかによります。
組織変更 | ⚪︎法人格の一体性を維持しながら1つの法人が実施するもの (例)合同会社→株式会社・株式会社→持分会社等の変化 |
組織再編 | 再編の開始時もしくは再編の終了時に複数の法人格が関与する (例)合併:2社→1社・分割:1社→2社等と会社数が変化 |
次にM&Aにおける組織再編を2つの目的から見ていきましょう。
M&Aにおける組織再編の2つの目的と5つの手法
M&Aの目的は、「既存の会社が引き継ぐ組織再編」と「新設会社が引き継ぐ組織再編」の2つにわかれます。
また会社法によって定められた組織再編の手法は5つです。
目的 | 手法 |
既存の会社から既存の会社が引き継ぐ組織再編 | ⚪︎吸収合併 ⚪︎吸収分割 ⚪︎株式交換 ⚪︎株式交付 |
既存の会社から新設会社が引き継ぐ組織再編 | ⚪︎新設合併 ⚪︎新設分割 ⚪︎株式移転 |
合併・会社分割は、「既存の会社が引き継ぐケース」と「新設会社が引き継ぐケース」で、それぞれ「吸収合併・新設合併」と「吸収分割・新設分割」に分けられます。
株式についても「既存の会社が引き継ぐケース」では「株式交換・株式交付」が手法として取られますが、「新設会社が引き継ぐケース」では株式移転がその手法です。
それでは「既存の会社から既存の会社が引き継ぐ組織再編」と「既存の会社から新設会社が引き継ぐ組織再編」に分類して解説します。
既存の会社から既存の会社が引き継ぐ組織再編
既存の会社から「既存の会社が引き継ぐ組織再編」のケースとしては次の4つがあります。
- 吸収合併
- 吸収分割
- 株式交換
- 株式交付
それぞれのケースの特徴やメリットと注意点を説明します。
吸収合併
吸収合併は、一方の会社である法人格のみを残して他方の会社(法人格)を消滅させ、合併により消滅する会社の資産・負債や許認可・免許などの権利義務全部を合併後存続する法人格に承継させる手法です。
<吸収合併のメリット>
吸収合併のメリットとしては次の4つが挙げられます。
取引先・*スケールメリットの拡大 | 会社の規模の拡大によって拡大が可能である |
新規事業への参入 | 消滅する法人格の許認可・免許などをそのまま引き継ぐ効果がある |
合併のための手続きが比較的簡素 | 新設合併と比較して手続きが簡素である |
資金調達およびキャッシュフローの負担の軽減 | 合併における対価の支払いを自己株式の交付で行える効果がある |
<吸収合併の注意点>
吸収合併の注意点としては次の2つが挙げられます。
- 存続する法人が未上場企業の場合は、自己株式を合併での対価として活用できない
- 消滅する法人の社員のモチベーションのケアに注意しなければならない
吸収分割
吸収分割は、自社内の事業に関する権利義務の一部または全部を分割して、その事業を既存の会社が承継することです。
不採算の事業を切り離して、より当該事業に長けた既存の他の会社に引き継ぐ場合に用いられます。
<吸収分割のメリット>
吸収分割のメリットとしては次の3つが挙げられます。
移転手続きがシンプル | 包括承継できるので労働者や取引先との契約や各種許認可の新たな手続きが必要ない |
資金調達の負担軽減 | 吸収分割の対価として株式を活用できる効果がある |
分割側の経営のスリム化 | 分割側は、自社の不採算事業を切り離せる効果がある |
<吸収分割の注意点>
吸収分割の注意点には次の3つが挙げられます。
- 事業を包括承継するため、吸収分割の事前に監査により簿外債務などを洗い出さなければならない
- 分割の承継会社が上場企業の場合、吸収分割の対価としての新株発行により株主構成が変化したり、一株あたりの利益が減少するため株価下落のリスクがある
- 吸収分割において人事制度や事業体制などの経営統合作業に時間を要すると、現場が混乱し期待したほどのシナジーを得られなくなる
株式交換
株式交換はM&Aの手法の1つで、子会社となる株主の保有する全株を親会社となる会社の株式を一定の割合で交換するものです。
株式交換では、完全子会社化する対価を自社株式で賄います。
一方で子会社の株主は子会社の株式に換えて親会社の株式を保有することになる仕組みです。
<株式交換のメリット>
株式交換のメリットとしては次の5つが挙げられます。
株式があれば買収資金が必要ない | 親会社の株式を対価に株式交換が行える |
経営統合がしやすい | 子会社は親会社とは別の企業として存続するので、急激な統合や変更を進める必要がない |
株主全員の同意がなくても実施できる | *「株主総会で決議」されれば、株式交換に反対した株主の株式も強制的に取得できる |
売り手が買い手の経営に参加しやすい | 売り手株主に対して買い手企業の株が交付されるので、売り手企業や子会社であっても議決権を持ち、買い手企業や親会社の経営に参加できる |
売り手は利益が獲得できる | 売り手は親会社や買い手企業の株式を取得し後に売ることで利益が得られるほか、株式交換のシナジーにより株式の上昇も期待できる |
株主総会決議の条件 ・株主総会に半数以上の株主が出席している ・株主総会に参加した株主のうち、3分の2以上が賛成している |
<株式交換の注意点>
株式交換の注意点は次の3つが挙げられます。
- 株式交換を実施する場合は、一つ一つの手続きが他のM&Aの手法よりも時間がかかるため、長期的な対応が必要となり担当者の負担にも配慮が必要である
- 株式交換のため、子会社となる企業の株主総会の実施に時間や負担がかかるうえ、特別決議で否決されると株式交換自体が不成立に終わる
- 株式交換では子会社となる企業を包括承継するため負債や必要のない資産も譲渡されてしまう
株式交付
株式交付は、2021年3月1日に改正された改正会社法によって新たに設定された組織再編の手法です。
株式交換と混同されがちですが、株式交付では売り手企業の全株式と買い手企業の株を交換して完全子会社化します。
株式交換では売り手側企業の一部の株式と買い手企業の株を交換することで単に子会社化することができるのが大きな違いです。
<株式交付のメリット>
株式交付のメリットは次の3つが挙げられます。
完全子会社化する必要がない | 株式交付では、経営上必要な株式(議決権)を取得するだけで良いのでトラブルが生じる可能性を抑えられる |
資金調達の負担軽減 | 子会社の全株を取得する必要がなく、過半数取得で子会社化、2/3取得で特別決議を通すことが可能である |
税制上のハードルが下がる | 対価として支払う自社株の比率が全体の8割以上であることだけが条件で税制上の優遇処置が受けられる |
<株式交付の注意点>
株式交付の注意点は次の3つが挙げられます。
- 改正会社法により株式会社が株式会社を子会社化するために対価として自社の株式を交付すると定義されているため、株式会社以外の組織(合同会社など)を子会社化することができない
- 株式交付は、他の株式会社を子会社とするために行う必要があるため、すでに他の企業の子会社である企業を対象にすることができない
- 株式だけでなく現金なども交付する場合には対価全体の2割未満でなくてはならない(子会社に支払う対価の合計金額のうち8割以上を親会社の株式とする必要がある)
既存の会社から新設会社が引き継ぐ組織再編
既存の会社から「新設会社が引き継ぐ組織再編」のケースには次の3つがあります。
- 新設合併
- 新設分割
- 株式移転
それぞれのケースの特徴やメリットと注意点を説明します。
新設合併
新設合併とは、複数の企業の事業・権利義務の一切を新設会社に承継させる組織再編の手法です。
合併後、合併前の法人格は消滅し、複数の企業の事業は一つに集約され新たな会社としてスタートすることになります。
<新設合併のメリット>
新設合併のメリットは次の2つが挙げられます。
取引先・スケールメリットを拡大 | 会社の規模の拡大による効果がある |
合併のネガティヴな感情を消滅できる | 吸収合併では合併される側の企業の社員・従業員は負の感情を持ってしまう可能性もあるが、新設合併ではどちらかが支配下に入るのではないため、合併に対してネガティヴな感情が生まれにくい |
<新設合併の注意点>
新設合併の注意点としては次の2つが挙げられます。
- 親切合併では消滅した企業の免許・資格・許認可も消滅するため、さまざまな手続きやコストが必要となる
- 複数の会社が1つの会社になりそれぞれの会社が持っている人事制度や経理処理などの社内制度を一本化する必要があるため、*PMIの負担が大きくなる
新設分割
新設分割は、経営のスリム化や倒産リスクの回避を図るため昨今よく見られます。
一部の事業を会社から分割して、新設会社にその分割した事業を承継させる組織再編の手法です。
<新設分割のメリット>
新設分割のメリットは次の3つが挙げられます。
対象事業を選択でき柔軟な組織再編が可能 | 特定の事業のみを分割して新会社に移転したり、複数の事業を組み合わせて1社にまとめたりできるため、柔軟な組織再編が可能である |
権利義務の承継が容易で迅速な会社の設立が可能 | 新設分割では分割事業に含まれる権利義務が包括的に新設会社に承継されるため、細々とした移転手続きが不要である(一部の業種では許認可を承継できないものもある) |
会社設立に大きな資金が不要 | 新設分割では新設会社の株式等を対価に事業が承継されるため、会社立ち上げに大きな資金は不要である |
<新設分割の注意点>
新設分割の注意点は次の2点が挙げられます。
- 事業を包括承継するため、吸収分割の事前に監査により簿外債務などを洗い出さなければならない
- 新設分割では、会社法による債権者保護手続き・株主総会など、労働契約承継法の従業員の権利を保護するための手続きが必要である
株式移転
株式移転は「⚪︎⚪︎ホールディングス」などの企業名でよく目にすることがありますが、複数の企業がそれぞれすべての株式を新設した会社に取得させる組織再編の手法です。
新設会社は、持株会社として全株式を取得した他の企業を傘下に組み入れることになります。
<株式移転のメリット>
株式移転は次の3つのメリットが挙げられます。
資金調達が不要 | 買い手新設会社は対価として株を発行するので新たな資金調達が不要である |
株主全員の同意がなくても実施できる | 対象企業の株主の賛成(3分の2以上)で少数株主を強制排除して子会社化できる |
参加企業の独立性の担保 | 対象企業は別法人として存続する |
<株式移転の注意点>
株式移転の注意点は次の2つです。
- 買い手側が上場企業の場合、株価において会社数が増加することで管理コストが増加し、利益減少に拍車をかけてしまい株価に影響を与えるリスクがある
- 売り手側の株主に新設会社の株式を交付するため、予定した株主構成が変化する可能性がある
まとめ
この記事では、M&Aにおける組織再編について解説してきました。
- 組織再編とは
- M&Aにおける組織再編の2つの目的と5つの手法
- 組織再編のメリットと注意点
それぞれの特徴を把握し、必要があればM&A仲介会社など外部の専門家を交え、自社に最適な方法を検討することをおすすめします。